昨日はNPO木の建築フォラムが主催する「第9回木の建築賞」の二次審査に参加しました。

準備不足が露呈しましたが、それでも何とかやり切りました。苦くも有益な経験となりました。これ以上でもこれ以下でもない山元の現状と私達の活動が少しでも伝わったことを願っています。その節はたくさんの皆さんのご協力とご支援を頂きましてありがとうございました。
以下、発表原稿です。早口で読んで制限時間の10分をフルに使う長い原稿ですが、よろしければ読んでみて下さい。
「そこに山があるから―完結型林業を目指す"山元"加子母の住まいづくり活動」
■(株)中島工務店■
皆さんこんにちは。私は岐阜県中津川市加子母にあります建設業者(株)中島工務店の中島大地でございます。よろしくお願い致します。実は4年前の「第5回木の建築賞」にも参加させて頂きまして、その折にも加子母を軸とした私達の住宅づくりをご紹介しました。今回もまた山元加子母の現状と、私達地域工務店の取組みをご紹介します。
■ヒノキのふるさと加子母■
岐阜県中津川市加子母は、木曽川・飛騨川・白川の源流に位置する人口約3,100人の小さな集落です。115k㎡の面積の内93%が森林で、地域住民のほぼ全戸が森林を所有しています。古くから林業が盛んな地域で、特にヒノキの産地として有名です。「木曽ヒノキ」と呼ばれる400年生のヒノキ林が残っており、森林や林業のシンボルとなっています。この天然生ヒノキ林は、戦前には「神宮備林」と呼ばれ、先に行われた伊勢神宮の式年遷宮の御用材が切り出される森林です。他にも、姫路城、法隆寺、東本願寺、延暦寺などの日本を代表する歴史的な木造建築にもこの「木曽ヒノキ」が使用されたという記録が残っています。
また人工林の「東濃ひのき」は全国的に重宝されている建築用材です。寒い地域で育ち目の詰んだ年輪や色艶、製材の二度挽きの技で、逸早くブランド化が進みました。こうしたことから加子母は、しばしば「ヒノキのふるさと」と呼ばれます。
■完結型林業■
そんな加子母では「完結型林業」を目指しています。加子母森林組合を始めとする杣人が、植林、育林、伐採、市売を担い、製材工場が市場で原木を競り、製材・乾燥し製品とします。そして工務店が住宅の設計と施工を担い、木材加工工場が構造材や造作材の加工を行います。1棟の住宅の木材の大部分を地域材で賄うことができます。さほどの規模ではありませんが、林業・製材業・建築業が同一地域内で完結する全国でも数少ない事例です。私達はこの「完結型林業」の更なる充実を目指しています。
しかしながら、加子母の林業・製材業が順風満帆というわけではありません。木材価格が30年前の1/3にまで下落し、森林経営は厳しさを増すばかりです。林業は補助金なくして成り立たないのが現状です。山主が森林組合に委託して森林を管理しても、その手間代が原木の販売価格を上回り、山主がお金を受け取るどころか請求される場合すらあります。このような状況が続けば、山主は山に手を入れることができず、森林放棄が進む一方です。
前回の「木の建築賞」の二次審査の質疑の場で、「加子母では木が伐採された後には植えられているか」と問われました。答えはNOです。森林資源とその歴史に恵まれた加子母であっても、森林管理は理想とは程遠いものです。
製材工場も同様です。約30年前の絶頂期には加子母だけでも28社の製材工場があり、年間約30億円を売り上げていました。しかし現在では、工場数も14社にまで減ってしまいました。林業同様、先行きの芳しくない業界では、後継者も減少の一途です。
更には、木材乾燥や性能表示等に係る経費が増すばかりで、外材との価格競争のため製品単価を上げることもできず、原木単価にしわ寄せがいくばかりです。抜本的な策もないまま騙し騙しの日々が続いています。
■産直住宅■
加子母の完結型林業の重要な要素の一つが「産直住宅」の取組みです。木材輸入の自由化により、安価で品質の安定している外材に需要が流れ、加子母の林業や製材業は窮地に立たされました。そんな状況を危惧した当時の加子母村長の号令で、都市部へ出稼ぎに出ていた大工職人を行政がバックアップするようになりました。この取り組みが後に「産直住宅」と呼ばれるようになりました。
旧加子母村では1980年代に「かしもひのき建築協同組合」を設立し、中島工務店は中心的な役割を担いました。中部地方の他に、関東地方と関西地方に営業拠点を構え、木材の調達・製材・加工を加子母で行い、この地域の職人達と共に都市部で住宅づくりをしてきました。田舎育ちの、商売っ気のない職人集団を支持して下さるたくさんのお客様と巡り合うことができました。
産直住宅を始めた頃は、とにかく我武者羅でした。仕事を選ばず貪欲に食らいつきました。厳しい予算や工期の中で、疑問や不安の残る仕事もして来ました。品質や効率は二の次の時代でした。
私達の手掛けた住宅が年々増えるにつれて、様々な不具合に直面しメンテナンスと向き合って来ました。企画・設計に始まり、建築工事から保守まで住宅づくりに一貫して携わることで、住まいづくりの本質とその難しさを実感し、数々の教訓を得ることができました。その結果、地域工務店がイニシアティブを取って、自信と責任を持ってお勧めすることのできる住宅が、最終的にはお客様のメリットになると考えました。まだまだ発展途上ではありますが、日々着実に前進していると実感しています。
■地域材の活用■
地域材の活用は、地域工務店が地域に負う責任であると考えます。地域材を地域工務店が活用し、地域の森林にお金を還元して始めて森林に手を入れることができます。それは毎年のように発生する土砂崩れや地滑り、河川氾濫を防ぐ手立ての第一歩です。又、地域材の需要が安定することで山元での雇用が安定し、都市部に就職口を求めるしかなかった若人が故郷に帰って来ることができます。
■ウッドマイルズ■
さて、岐阜県立森林文化アカデミーを中心として体系化された「ウッドマイルズ」という指標があります。鉄筋コンクリート造や鉄骨造の住宅に比べ、木造住宅は建築時に排出する二酸化炭素量が圧倒的に少ないことはご存知の通りですが、地域材を使った住宅では、日本で建築されている平均的な木造住宅に比べ、70%以上の二酸化炭素の排出を削減しています。
海の向こうから外材を日本に運んでくるのに排出される二酸化炭素量は、私達が家庭でセッセと取り組んでいるエコ活動を帳消しにして余りあるマグニチュードであることは容易に想像が付きます。そのバランスの不自然さを直視すべきであり、日本の住宅には日本の木を使うことが環境問題の切り札の一つであることを、国を挙げて再確認すべきです。
■私達のPR活動■
そんな訳で、私達は地域材の活用を訴え続けなければなりません。それは山を背負った人々の切実なメッセージをお客様に伝えられる立場にある地域工務店の使命だからです。中島工務店では、年間を通じイベントや勉強会を開催しています。
■水と緑の勉強会■
春と秋の年2回開催する「水と緑の勉強会」では、都市部からお客様を加子母にお招きして、半径十数kmの範囲で伐採・原木市場・製材・乾燥・加工・製品市場・建築現場と、木造建築の"川上から川下"を見学して頂きます。又、先に述べました「神宮美林」に登り、400年生の森林に囲まれて、森林の生い立ちや国産材活用の意義を勉強します。
■ふるさとまつり■
次に「ふるさとまつり」です。住宅を建築させて頂いたお客様を、初夏の加子母にお招きして、山村文化を満喫して頂こうという一泊二日のキャンプです。「都会の人々に第二のふるさとを」を合言葉に取り組んできた私達の住宅づくりにご共感頂いたお客様の住まいづくりのエピローグとして、お客様に加子母をより身近に感じて頂きたい、また遊びに来て頂きたいという気持を込めて毎年開催しています。
■加子母木匠塾■
他にも数々の取り組みがあります。毎年夏に開催する「加子母木匠塾」もその一つです。今年で18回目を迎える加子母の風物詩で、関東や関西の6大学から300名にも及ぶ学生が加子母に集い、工務店の指導の下木造建築を実践します。高齢化が進む加子母の平均年齢が一時的に下がる2週間です。京都造形芸術大学も常連校の一校です。
■かしも山歩倶楽部■
年に4回の「かしも山歩倶楽部」では、渓谷散策、林道歩き、登山、木工教室等を開催し、四季を通じ加子母を楽しんで頂くことができます。遠くは東京や大阪からもご参加頂いています。
今後は、志を同じくする加子母の行政とも積極的に連携を図り、活動をより一層充実させて行きたいと目論んでいます。
■最後に■
衰退の一途を辿る日本の林業や製材業に、一発逆転の解決策はありません。森林育成は、単に加子母だけの問題ではなく、また単に民間企業だけで取り組めるものでもありません。それぞれの地域のリーダーが音頭を取り、行政と民間が手を取って地道な努力を重ね、小さな成功を重ねていくほかありません。私達地域工務店が、地域工務店こそが、中心的な役割を果たすことができると思います。
国破れて山河あり。森林育成や国産材利用は、政権の所在や景気の上げ下げ、補助金の有無などで一喜一憂することなく、地道に続けて行かなければなりません。国産材が大手企業の一時的な商売のネタに終わってはなりません。環境意識を気取る者のステータスに成り下がってはいけません。熱し易く冷め易い日本人の流行と共に廃れてはいけません。森林育成と国産材利用は世代を超えた恒久的な取り組みでなければなりません。
人口3,100人の小さな集落加子母では、住宅づくりをその一部とする「完結型林業」と共に地域の発展を目指して日々尽力しています。そこに山があるから。
中島 大地