私は常々「造り手と住まい手の化学反応」と言う表現を使います。お互いの情熱や拘りのぶつかり合いから、更に良い物が生まれるという意味で、日々の仕事の中で実感しています。またそれが私達の限界を押し広げてくれます。
現在建築中の「味わい処いろは」さんの玄関建具の引手について、お施主さんの一人から疑問を頂きました。どうやら、元々提案していた引手とよく似た引手が、ある病院のトイレに使ってあって、トイレの引手と同じということに抵抗があったそうです。
個人的には「趣を重視した上質なトイレなんだなぁ」と思いましたが、何はともあれデザインを練り直し。(協)東濃ひのきの家造作工場に相談した所、以前解体した建物に使ってあった栃の床框があるから、それから削り出してはどうかと提案を頂きました。
私も栃が好きで、その中でも「縮み杢」は大好きで、その床框には非常に強烈な縮み杢がありましたので、「材料はこの栃ありき」として、続いて形状を考えました。お施主さんから、「真っ直ぐは面白くないから曲った感じで」とより具体的なイメージを頂いたので、その案で原寸図を作り、床框の現物を持って打ち合わせに。

そして早速造作工場で加工して頂き、素晴らしい引手ができました。更にここから塗装をし、より一層縮み杢が際立つようになります。

「味わい処いろは」さんへお越しの皆さん、玄関の引手をご覧の際には、造り手とお施主さんの化学反応から生まれた物語があるんだと思って頂ければ幸いです。
中島 大地